人的資本とは
個人のファイナンスを考えるのに理解しておくべき重要なことのひとつが、人的資本の概念です。
人的資本とは、将来の労働収入を、金利や収入変動リスクを考慮して現在価値に割り引いて合計したものです。収入が不安定だと、割引率が高くなり、人的資本は小さくなります。
将来期待される労働収入(期待値)が同じでも、浮き沈みの激しい不安定な景気敏感職の人と、安定している公務員では、後者のほうが人的資本が大きいです。
したがって、公務員のほうが投資にあってはリスクを大きく取れることになります。

イケイケな仕事をやっている人がプライベートでは手堅い資産運用をしていて、お堅い公務員がレバレッジ投資とかやっているのは、イメージと逆で面白いですね。
しかし、人的資本を考慮するとそれが合理的だったりします。
若い安定した企業に勤める会社員は、人的資本が1億円以上あったりします。そのため、保有資産の大部分をリスク資産に投資しても意外と大丈夫だったりします。
ただし、人が生きていくと支出が発生するので将来の労働収入をすべて投資に回せるわけではなく、将来の支出を負債として差し引いて考えるべきです。
高齢になると将来の労働収入は小さくなるので、一般的に人的資本は小さくなっていきます。退職してもう働かないとなると、人的資本はゼロになります。したがって、定年が近い人やリタイア者にリスクの大きな投資はあまり向きません。
定年に近い人に「時間があまり残されていないから老後資金を高倍率のレバレッジ投資で準備しろ」と煽ってリスクの高い投資をすすめるようなことは、一般論としては好ましくないでしょう。
私は、人的資本は大きいが投資額が小さい人(若い会社員等)が、低いレバレッジをかけて投資することに対しては肯定派ですが、それは大きな人的資本の裏付けがあってのことです。
若い共働きの家計では人的資本が二人分あるわけですから、大きなリスク負担能力を持っていたりします。
30歳くらいの大企業に勤める正社員の夫婦がいたとして、投資がうまくいかなかった場合には60歳まで働く意志があるとすると、将来投資に回せる金額の総額の現在価値(以下、将来投資総額と呼ぶ)が、1億円くらいあったりします。
投資が怖い人向けのグラフ化
大きなリスク資産を持つべきと頭では理解していても勇気が出なくて投資に踏み出せない人は、将来投資総額を含めた現保有資産をグラフ化してみることをおすすまします。
たとえば1億円の将来投資総額を持つ世帯が、手持ちの資産1000万円の大半を全世界株式インデックスファンドに投資したらどうなるでしょうか。ポートフォリオをみてみましょう。

安定した職に就いているとすれば、将来投資総額は債券のような安全資産のようなもので、ほとんどリスクに曝していません。
次にこれを棒グラフにして、1年後に2標準偏差の大暴落が起こった場合と比べてみましょう。株式は30%の下落に見舞われます。

いかがでしょうか。30%の大暴落も、将来投資総額を含めた資産でみるとさざ波に過ぎないですね。

コロナショックのときにレバレッジ投資をしていましたが、このようなグラフを見て落ち着きました。
もちろん、株が暴落するときには不景気になり、職が不安定化し人的資本が縮小するおそれがありますので、その点には注意すべきです。
理性が合理的だと判断していても本能が怖がってしまうときは、本能を落ち着かせる必要があります。本能はロジックでは説得されないので、グラフ化して直感で納得させるのが有効です。
この記事が皆さんの参考になれば幸いです。
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